英国チャールズ国王の戴冠式

2023年5月6日に故エリザベス女王の後を継ぎ、昨秋即位したチャールズ国王の戴冠式が行われました。チャールズ国王はカミラ王妃と共に、ロンドンのウェストミンスター寺院での式に臨まれました。同寺院で戴冠式が執り行われるのは40回目になりますが、今回のこの歴史的瞬間には、伝統と新たな試みの融合が実現され、多様性と包摂性(Diversity, Equity, and Inclusion:DEI)への取り組みが強調されました。

伝統に則り、聖エドワードの王冠を戴くチャールズ国王は、先代の英国君主たちと同じく、この戴冠式で国民と世界に誓いを立てました。そして新たな試みとして、例えば、叙位に続く「人々の称賛」として、寺院内や中継で見ている全員が国王に忠誠を誓うことができるようになりました。敬虔なヒンドゥー教徒である現英首相のリシ・スナク氏が聖書を朗読したり、黒人の人だけの聖歌隊による合唱があったことなど、より現社会が反映された試みが見られました。さらに、カトリック教会の指導者など、異なるキリスト教宗派の指導者が祝福に参加したのは、今回が初めてであり、イギリス王室がDEIの重要性を認識し、それを具体的に実践していることが示されました。これは、長年にわたり宗教間の融和を促進し、インクルーシブな社会を築くための努力が実りつつあることを意味するように思えます。

また、この戴冠式では、様々な文化や民族、性別、年齢層の人々も参列し、統合された祝福の場となりました。例えば、多様な文化を象徴する音楽やダンスのパフォーマンスが披露され、伝統的なイギリス文化だけでなく、英国社会の現代の多様性を反映したものとなりました。このような取り組みにより、イギリス王室は国民や世界の人々とのつながりを強め、より広く受け入れられる存在となっています。今回の式でのDEIへの取り組みは、チャールズ国王の治世がDEIを重視し、それらが国家の発展に欠かせない要素であることを理解していることを示しています。

チャールズ国王の戴冠に立ち会う妻のカミラ王妃。彼女も聖油での聖別を受け、冠を与えられ、王座に座りました。ジョージ5世の妃メアリー王妃のために作られたその冠は、カミラ王妃の頭に合わせて形や大きさが調整され、世界最大のダイヤモンド原石からカットされた「カリナン III」、「カリナン IV」、「カリナン V」がはめ直されました。また、カミラ女王に授けられたのが、インドから植民地時代に略奪したとされる「コーイヌール」(106カラットのインド産ダイヤモンド)ではなく、故エリザベス女王の私的コレクションの宝石を「再利用」したメアリー(16世紀のスコットランド女王)の冠でした。

バッキンガム宮殿へ戻るパレードでは、国王夫妻は1761年製作の「ゴールド・ステイト・コーチ」に乗られました。これは、1831年のウィリアム4世の戴冠式以降、イギリス王室のすべての戴冠式で使われてきた馬車です。また、英国軍から約4,000人が参加し、軍が参加する式典としては数十年来の規模です。

式典後には、新国王がバッキンガム宮殿のバルコニーに立ち、ザ・マル(バッキンガム宮殿とトラファルガー広場を結ぶ通り)に集まった人たちに挨拶するのが慣習となっています。チャールズ国王とカミラ王妃もこの伝統に倣い、バルコニーに立ちました。

これまで、故エリザベス女王が英国の顔として深く国内外から尊敬され、君主制の象徴の責務を全うしていました。一方で、チャールズ国王は英史上最高齢とされる73歳での即位であることや、過去の問題から国王としての適性を疑う声もあります。先週発表された戴冠式に関する世論調査では、「特に興味がない」と「全く関心が無い」という無関心な層が全体の64%に達し、特に若い世代でその割合が高くなっています。また、別の調査では、君主制を支持する人が58%いる一方で、「国王は国民の意向から遠ざかっている」と感じる人の割合は45%に上っています。君主制廃止を訴える団体がパレード付近で抗議していたりと国内での亀裂が垣間見える瞬間でもありました。国内の貧困率は2022年の17.2%から18.3%まで増加しており、生活に困窮している国民が増えている中での華やかなパレードは一定数の反感を生んでしまうのかもしれません。ですが、君主制度において歴史と伝統をつなぐことは、国内外において重要なことだと考えます。しかし同時に若い世代の王室離れ、反君主制の声の高まり、戴冠式の時代錯誤性の声などが増えており、一人一人が「これが正しいことなのか?」ということを考えることが重要なのではないでしょうか。

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